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2025年6月2日(月)

進化

 文部科学大臣はこのところ頭が痛い。小・中・高で行っている学力検査の結果がここ数年思わしくないのである。しかも回数を経るごとに確実に低下しているのである。原因ははっきりしない。さらに大学関係者の間でも困ったことが起きていた。毎年の入試の合格者平均点が下がる一方である。留年する学生数もこのところ増え続けている。

 アメリカでも関係者が同じようなことで悩んでいた。ノーベル賞受賞者数で世界的に有名な大学ではここ10年くらい受賞者が生まれていない。

 さらに不思議なことが起きていた。毎年の特許申請数が世界中で減少している。中には差し迫った問題もあった。あれほど研究者たちが躍起になって研究・開発に没頭していた新型パンデミックウイルスワクチン開発が一向に進まないのである。期待が非常に盛り上がっていたiPS細胞の研究も一時期程には進んでいない。社会面でもおかしなことが起きていた。交通事故がやたら増えていた。そして車に限らず船や飛行機の事故が立て続けに起きていた。一部ではテロ攻撃も疑われたがその証拠は見つからなかった。

 そういう状況にある時、日本の遺伝子研究施設の1つから驚くべき報告が政府にもたらされた。それは人間に必ず存在すると言われている HEG2( Human Evolution Gene 2)  という遺伝子に突然変異が見られるというのである。この HEG2 という遺伝子は人類が原人から現代人に進化する上で重要な役割を果たしてきたと見られている。人類は今も進化の途中にあり、これからもいろんな面で進化が続いていくがその原動力になる遺伝子と見られていた。そしてさらに詳しい研究・調査が進められることになった。

 数ヶ月後新たな報告がなされた。驚くべきことにHEG2 の新たな変異は人類の進化が止まったことを示していた。場合によっては「可逆進化」も考えられるとのことだった。経済用語で「○○%の経済成長・・・」という時に、「○○%のマイナス成長・・・」ということがある。これは成長に名を借りた減少または退化をあたりさわりなく表現する時の言い回しである。「可逆進化」とはすなわち「退化」することにほかならない。

 政府首脳は頭をかかえてしまった。人類の脳が退化しはじめるとは?進化って一体何だったのだろう?

 それから数十年が経過した。もはや地球上には文明は存在せず、かつて知的生物の代表だった人類の痕跡だけが残されていた。どういう訳かその「可逆進化」は人類にだけ及んだようである。地上には多くの動物たちの姿が見られる。群れをなしているのはチンパンジーやゴリラのグループである。彼らは人類の代わりに急速に進化し始めたようである。人類の姿は今やジャングルの木の上に見られるだけになってしまった。

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 水星に住む宇宙人たちは長い間地球と地球人を観察していた。以上は彼らからの報告である。

(注)

 本作品は作者の創作によるフィクションであり、現実に存在するものとは全く関係ありません。

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