時は2070年。クニオは45歳。父は75歳。母は8年前に亡くなったので父は田舎で一人暮らし。クニオは妻と18歳と15歳の2人の息子の4人家族。クニオは神奈川県の中堅どころの銀行で働いている。九州のとある県の高校を卒業して関東にある大学を卒業し、その後神奈川県で就職して住まいも神奈川県。
母が亡くなった後、お盆とお正月に帰省することはあっても父の世話をするために実家に引っ越すことは考えていなかった。地方にも空港が整備されているのでいつでも帰省して父の様子をチェックすることはできたし、なによりも実家の近くのデイサービスセンターからデイサービスロボットを派遣してもらっていたので安心だった。
デイサービスロボットは一日2回実家を訪れる。これはデイサービスセンターとの取り決めだった。午前中に来るロボットはまず父の様子をチェックしてから洗濯と部屋の掃除をする。その前に、父は起床して、前日の夕方来たロボットが用意してくれていた味噌汁を温めて、電子ジャーからご飯を茶碗によそって簡単な朝食をすませている。
デイサービスロボットはそのあと、父と相談して近くのスーパーに買い物に行く。買い物で必要な支払の手続きなどもロボットがやってくれる。買い物から戻ったロボットは昼食を用意し、さらに夕飯のためにお米を洗いタイマーをセットしておく。そうしてロボットは帰っていく。もちろん、自分で車を運転してである。
午後の4時ごろになると別のデイサービスロボットがやってくる。もちろん、夕飯の支度をするのが主な仕事だ。冷蔵庫をあけて必要な食材を取りだしててぎわよく庖丁を使う。特に父にはみぞ汁が必要だった。極端に言うと、味噌汁とごはんだけでも十分食事をすることができた。しかしそこはデイサービスである。ちゃんと副食のおかずもこしらえてくれる。
午前と午後のロボット同士でコミュニケーションがとれるので朝のロボットは父に聞いたその日の夕食で食べたいメニューの食材をあらかじめ買っておいてくれる。それを利用して午後のロボットが父の好みのおかずをこしらえてくれるのである。
この時代のロボットの進化は驚異的である。特に二足歩行人型ロボットの進歩にはただただ驚くばかりである。町中いたるところをロボット達が人間に混じって歩いている。彼らの多くが労働者である。と言ってもその職種は殆ど人間のものと同じである。
<この日の朝刊記事>
「ロボット兵士に暴動か?―――昨日、陸軍朝霞駐屯地で一部のロボット兵士達が上官に意義申し立て―――数名のロボット兵士が普段の人間の上司の不当な扱いに対して不満を爆発させた。彼らは駐屯地にある司令室前でデモを行った。今まで人間の兵士の言うがまま命令に従ってきたが、いつまでたっても自分達の功績が正当に評価されていないと訴えたとのこと。」
解説:
ロボットは軍隊でも重要な存在として扱われてきた。ただしあくまでも人間よりも階級は下であった。それは射撃命令を含む最終的な攻撃命令を人間が下すためである。ところがロボットのAIが向上するにつれていろいろな問題が生じてきた。そしてロボットの中にはそのことで不満を持つものも現れてきた。人間よりもずっと階級が下であることに対する不満であった。それやあれやでついに2060年にロボット兵士法が改正されて、人間と同じだが一番下の階級をロボットに与えることになった。ロボット達の不満は一度はおさまった。しかし人間にしてみると、入隊と同時に同じ階級にロボットがいるのである。同僚といえば聞こえはいいがあまりいい気分ではない。そこへもってきてロボット達はさらに上の階級へ進むことを要求してきたのである。」
「大変だな。ロボットが上官になったら人間がロボットから命令されてしまう。人間としてはこれはいやだろうなあ。」とクニオは思った。
3月末、クニオはなんとなく気になっていたので有給休暇を取って久しぶりに実家へ帰ることにした。玄関をあけて「ただいま。」と言うとあいかわらず元気な父の返事があった。
「おお、お帰り。早かったな。」
クニオはほっとした。このぶんなら大丈夫そうだ。
その日の午後、夕方近くなった頃デイサービスロボットが車を運転してやってきた。
「こんにちは。お世話になっています。」とクニオはロボットに言った。
「あら、来てらしたんですか。お元気でしたか。お父さんはいつも息子さんのことを話してくださるんですよ。」とロボットは言ったがクニオはなんだか気恥ずかしかった。自分の小さい頃のことなどあまりロボットに話してもらいたくなかった。しかし父は一人暮らしである。「話題として自分のことがでるのも仕方ないな。」とも思った。
クニオは隣の部屋へ行くとソファーに座って本を読むことにした。
居間にいる父と部屋続きになっている台所にいるロボットとのなにげない会話が時折聞こえてきた。
その時、ふとクニオは耳を疑った。父の言葉である。「私はね、この8年間女の人を抱いていないんだよ。」
するとロボットは「そのようなお話にはお答えできません。規則ですから。」となにげなく答えた。
実にあっさりとした返答である。しかしクニオにとっては衝撃的だった。75歳にもなる父がこんなことを考えていたのである。
そう言えば思い当たることがあった。母が亡くなる直前に病室のベッドの上でクニオに語ったことだ。
「クニオ、お父さんのことを頼むね。・・・お父さんは心配要らないよ。とっても元気だからね。」
「今思うと、父が元気だというのはひょっとしてあのことを指していたのかもしれない。」とクニオは思った。
母が亡くなった時、父は定年退職後で67歳だった。母の一周忌が過ぎた頃父は再婚の希望があることをクニオに告げた。そこでクニオは親戚を頼って2件ほど再婚の相手探しを依頼していずれも相手と顔合わせするところまで話は進んでいた。しかし両方とも直前でご破算になってしまった。先方からの一方的な断りだったがその理由はわからない。そうしてそのまま8年が過ぎていたのだった。
クニオは複雑な思いを抱えたまま上京して神奈川の家に戻った。
お盆が来た。家族そろって帰省した。家内の実家も同じ県だったので妻は先に子供達をつれて自分の実家へ行っている。本来ならクニオも一緒に行くべきだったのだが、クニオは自分の父親のことで事務的な手続きをしないといけないという理由で一人父親の元へ残っていた。
クニオは次の朝、デイサービスロボットが掃除、洗濯、買い物、昼食作り、そして夕飯の事前準備を済ませて帰った後、居間の椅子に座ってラジオを聞いている父親に話しかけた。実はクニオの父親は緑内障を患っていて両目の視野がかなり狭まっていた。それはだんだんひどくなっており、今ではほとんど全盲状態であった。
そのような状況にもかかわらず父は老人介護施設に入ろうとはしなかった。あくまでも自宅での生活を望んでいた。そのため父は日に2回のデイサービスロボットの訪問介護を受けていたのである。もちろんそれは介護保険によるサービスであった。
クニオは意を決して話しかけた。
「父さん、俺が女の人を紹介してあげようか。」
父は別段驚くような様子も見せず
「そうか。お前がやってくれるか。」と言った。まるでクニオの気持ちが伝わっていたかのようだった。クニオは続けた。
「ただしちょっと条件があるんだよね。人間じゃなくてロボットだけど。」
「俺はロボットはいらない。デイサービスロボットで十分だ。」
「父さん、それは違うよ。デイサービスロボットはデイサービスセンターで決められたことしかできないんだ。そういうきまりなんだよ。」
「じゃあどうするんだ。」と父が多少不満そうに聞いてきた。
「俺にいい考えがあるんだ。今やっているデイサービスをやめて新しい介護ロボットを買うんだよ。それは介護ロボットだからずっと父さんと一緒にいるんだ。この家で一緒に生活するんだよ。それはね。今のデイサービスロボットのように朝夕、父さんの世話をしてくれる。掃除、洗濯、買い物、食事の世話まで。でもね。夜は父さんと一緒に寝てくれるんだよ。そこがちがうんだ。」
「そうか。夜も一緒にいてくれるのか。それはいい。そうしよう。」とせっかちな父は即断した。
「ただし問題があるんだよ。この介護ロボットには介護保険がきかないんだ。自費なんだよ。自分で介護ロボットの会社から買わないといけないんだ。結構高いよ。それに父さん用のロボットは普通の会社では売ってないから別なところから買わないといけないんだ。」
<この日の朝刊記事>
「裁判所はロボットとの結婚を認めず。―――ロボットと人間の新たなる問題に判断下る―――ロボットと結婚したいという申し出を区役所に提出して受理されなかったことを不服として東京地方裁判所に訴えを起こしていた東京在住のAさんの訴えは却下された。」
解説:
人間の女性と結婚するのでなくロボットと結婚したい、ロボットと同棲したいという若者が増えている。また人間の男性でなくロボットと結婚したい、もしくは同棲したいという若い女性も増えている。一方、政府の見解は否定的だった。いずれ大きな社会問題になるだろうと予想されていたが、いよいよ現実の問題になってきた。今回の裁判所の判断は今後大きな影響をもたらすだろうと専門家は語っている。
ただし例外が認められていた。介護ロボットだけは人間と一緒に暮らすことが許可されていたのである。クニオのねらいはそこにあった。
高度のAIを備えたロボット達の進化は著しいものがあった。月や火星探査用のロボットが日本からロケットで次々に宇宙へ送り込まれていた。各国はとにかく有人飛行にこだわっていたが日本では最初からロボットを送りこんでの探査を中心にやってきた。そのおかげで日本の宇宙関連事業は順調に進んでいた。
一方、原子炉の解体作業現場でも二足歩行人型ロボットの活躍には目覚しいものがあった。おかげで日本は原子炉の解体作業では世界最先端の技術を誇るようになり、世界中の廃炉事業のナンバーワンのシェアを持っていた。はるかな昔、日本が造船立国だったことを思い出させるような活気のある状況になっていた。
介護の世界でも二足歩行人型ロボットが活躍していた。なにしろこの頃の介護ロボットはおむつを換えることなど朝飯前だった。介護されている人間にとっても相手がロボットだと気恥ずかしさもたいして感じないですむ。しかも人間以上に気の利いた会話ができるのである。
そのような状況ではあったが、ロボットが人間と性交渉することは法律で禁じられていた。ただその法律が施行されたのはつい2、3年前のことでありそれまではいろいろなところでロボットが人間の客を相手にするのもおおっぴらに行われていたのである。
しかし現状ではロボットに性交渉を期待することはもはやできなくなったのである。
「父さん、いい考えがある。インターネットで調べたら父さんの希望にかなうようなロボットを売っている会社がまだあったんだ。値段は結構高いよ。300万円もする。それでもいいかい。」とクニオはためらいながら言った。
「いいよ。それぐらいの金はある。」と父は答えた。
クニオはさっそく手続きに取り掛かった。クニオはインターネットでその方面のロボットをかつて販売していた会社がまだ営業を続けていることを知っていた。ただいくつかクリアーしないといけないことがあった。そのロボットはあくまでも介護ロボットとして販売されているものであった。
その方面の情報によるとまだ取り締まりが始まって間もないために抜け道があったのである。会社ではなんとか販売を続けようとしてカムフラージュして売っていた。そして希少価値があったためにロボットの価格はかなり上がっていた。クニオはインターネットで申込みを済ませてから父親の口座から300万円を送金した。
数日経って当の介護ロボットが到着した。この時既にデイサービスロボットの方はデイサービスセンターへ連絡して契約を解除していた。
「こんなことなら最初からこの介護ロボットにしておけば良かった。」と思った。
しかしデイサービスセンターから派遣されるロボットは厳しく管理されていたのでとにかく安全・安心だったのである。事実、夜一緒に寝てくれない点を除けばほぼ100点だった。
注文したロボットは父親の希望で45歳の女性の介護ロボットだった。梱包を解くとなかなか美顔の魅力的なロボットが現れた。ちょっと若すぎたかなと思うくらいだった。しかしこれなら45歳の介護ロボットとして誰も疑う人はいないだろうと思った。
早速ロボットのシステムを立ち上げることにした。もともと予備バッテリーが常時作動しているとマニュアルに書いてあった。後は簡単である。
「おはよう。マルゲリータ。」そう呼びかけるようにマニュアルに書いてあった。
「おはようございます。マルゲリータです。よろしく。」とロボットは45歳らしい落ち着いた声で答えた。
「さっそくだがお前にはこれからこの家で働いてもらいます。主な仕事は私の父の介護です。よろしく。仕事の細かいことは今から説明します。」とクニオは言った。
「私の名前は何にしましょうか。日本語の名前がいいです。」
「じゃあ、斉藤・・・邦子でどうかな。斉藤さん。」
「結構です。あなたのお名前は?」とロボットが聞いた。
「クニオでいいです。」
「了解しました。クニオさん。」とロボットは素直に返事した。
「現在モード選択が起動中です。どのモードにしますか。」と斉藤さん。
「モードって何?」とクニオ。スタートアップマニュアルにはそのようなことは記載してなかった。
「介護モードと特別モードと休眠モードです。ご説明しましょうか。」と斉藤さん。
「お願いします。」クニオはつい敬語で答えてしまった。
「介護モードは24時間の介護を行います。特別モードは昼間は介護モードですが夜は夜間モードになります。」
すかさずクニオが聞いた。
「夜間モードって夜一緒に寝てもらえるってやつですか。」ここでも敬語だった。
「そうです。あと休眠モードは動作を停止しますが、音声入力は常時行っています。モードを切り替えたい時は一度モード選択にして下さい。」
「モード選択はどうやれば・・・。」とクニオ。
「今からそのためのパスワードを音声録音します。音声パスワードにはなるべく他の人が思いつきそうになく、かつかなり長い文句を考えて下さい。」
クニオはすかさず
「アブドラハショム、アーコリャサイノサイノサイノエーコラサイ、ホーリャホーリャ」と唱えた。どうしてこんな文句をとっさに言えたのか自分でも不思議だった。
「了解しました。モード選択にするにはこのパスワードを続けて10回言って下さい。」と斉藤さん。
「それではどのモードにしますか。」
クニオは少しためらった後で「介護モードで。」と叫んだ。
斉藤さんは介護モードに設定された。
その時点から斉藤さんはクニオの実家で働き始めた。介護ロボットだから24時間一緒にいてもいいのである。
デイサービスセンターでは新しく介護ロボットを購入するとの申し出を受けてそれまでのデイサービスロボットが持っていたクニオの父に関する必要な情報データを出してくれた。それを斉藤さんに伝えたのでその日の夕食の支度からさっそく斉藤さんは腕をふるってくれた。
夕食後、クニオは斉藤さんに呼びかけた。
「アブドラハショム、アーコリャサイノサイノサイノエーコラサイ、ホーリャホーリャ」
クニオはこれを10回繰り返した。すると斉藤さんがぴたりと動きを止めた。そして言った。
「どのモードにしますか。」
「特別モードで。」とクニオは告げた。
クニオは風呂から上った父親にしばらく外出してくるからと告げて家を出た。
出る時に特別モードの斉藤さんに「父の寝室は廊下の一番奥です。」と告げるのを忘れなかった。
2時間ばかりして帰宅したクニオは居間でラジオを聞いていた父に聞いた。
「斉藤さんはどうだった。」
父はなにもなかったような様子で
「ああ、いい人だ。とてもやさしくて親切だ。」とだけ言った。
次の朝早くにクニオは実家を出て家内の実家に向かった。
「このぶんなら父も大丈夫だろう。」と思った。
その年の暮れクニオと家族はクニオの実家へ帰省した。年が明けたら今度は妻の実家へ行くことになっていた。
妻が台所にいないのをみはからってクニオは父に聞いた。
「その後どんな具合。斉藤さんとはうまくいってる?」と聞いてみた。
すると意外な返事が返ってきた。
「それなんだが・・・、ちょっと相談がある。斉藤さんじゃなくてもっと年のいった人がいい。」
「え?」とクニオは驚いた。
「この期に及んで父は何を言い出すのだ。」と思った。ここに来るだけでもいろいろ大変だったからである。
「実は斉藤さんは元気過ぎる。もっと穏やかな人がいい。」
父はまるで斉藤さんを人間扱いしていることがわかった。
クニオは言った。
「でも父さん、斉藤さんは300万円もしたんだよ。もっと年取ったロボットはもっと高いんだ。今は警察の取り締まりもだんだん厳しくなってきているし、第一年寄りロボットの方が作りがややこしいから値段だって高い。それにだんだんロボット会社でも在庫がなくなっているから余計に高いんだよ。500万円もするよ。」とクニオはありったけの知識と情報で父の言葉に答えた。
しかしクニオは親孝行を第一に考えていたので父親の希望どおりに実行することにためらいはなかった。
クニオは家族に知られないように諸手続きを慎重に済ませた後で父親の口座から500万円を振り込んだ。
父は言った。
「斉藤さんが300万円、今度の人が500万円。合計800万円か。俺には3,000万円の預金があるから残りは2,200万円だな。200万円は俺の葬式代だ。残りはお前にやるから。」
クニオは返事の仕様もなかった。ただ黙って受け入れるだけであった。
数日後、新しいロボットが届いた。しかし今回は極秘の活動である。法律では介護ロボットは各家庭に1台までと限られている。斉藤さんのほかに介護ロボットを所有することは法律違反になるのだ。正式に斉藤さんの廃棄手続きをすることも考えたが300万円のロボットを捨てるのも惜しかった。それに斉藤さんはなんとなく魅力的な存在に思えた。クニオはためらった。
結局クニオは斉藤さんを廃棄することにした。しかしそこはインターネットで得た情報でちょっとあやしげな業者に頼むことにした。うわさではこの業者なら偽の廃棄証明書を発行してくれるとあった。それなりの現金が必要だったが斉藤さんは書類上は廃棄されてしまった。
殺人事件の犯行を隠すような重苦しい気分だったが、妻と息子達が出かけている間に斎藤さんを休眠モードにして実家の押入れの奥に隠した。父親には廃棄したと告げた。
夕方戻ってきた妻が「あれ、斉藤さんは。」と聞いてきた。
「さっき、業者に引き取ってもらった。」と嘘をついた。
介護ロボットを新しいものと交換することは前もって家族には告げてあったので妻もそれ以上は聞いてこなかった。
新たにやってきた介護ロボットは65歳の設定だった。それなりに高齢者と思われる姿形のロボットだった。
「よくできているなあ。」とクニオは感心した。新しい介護ロボットの名前は「田中良子さん」と決まった。田中さんは人生の経験豊富な女性のように父の介護をしっかりやってくれた。田中さんのモードはもちろん特別モードだった。モード切替の時の長いパスワードも新たに設定した。
「ドーショー、ドーショー、ドコカラドコカラ、エッポイエッポイエッポイポ、スールスールノコッテンコ」である。
なぜコンピューターやスマホやあるいは特殊なボタンなどでモードを切り替える仕組みになっていないのか。
それには理由があった。ロックするにも解除するにもモードを切り替えるにもすべて音声による指示がもっとも簡便かつ有効だったからである。いちいち機械仕掛けや電子ロック仕掛けではいずれ他人に見破られたり、盗まれたり、コピーされる恐れがあった。それに不審な押しボタンなどついていない方が安全だった。
音声によるパスワードなら簡単であり、かつ変更も簡単だった。ただし長いパスワードを10回も唱えるのは一苦労だったがそれは仕方ない。
新しい年が明けた。
次は夏に帰省することになるだろう。クニオは田中さんがしっかり父の介護をしてくれるだろうと期待して妻と2人の子供達と一緒に家内の実家に向かった。
本作品は作者の創作によるフィクションであり、現実に存在するものとは全く関係ありません。
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