現在のロボット研究・開発・製造はかつてない活況を呈している。未来に向けて大きな夢が開くと同時にそれに伴う様々な困難が予想される。私達日本二足歩行人型ロボット研究学会ではこれまで様々な機会を捉えて議論してきた。しかし事態は私達の予想を遥かに上回る早さで進展している。そこで私達は2020年度総会、分科会、ならびに特別報告会での研究発表、報告、そして協議を踏まえて、今後のロボット研究ならびに開発に向けての一つの方向性を提示することを決議した。
自動車の発明と発達は人類の生活に重大な影響を及ぼしてきたが便利な面だけに注目が集まり、今日見られるようなマイナス面については長い間見過ごされてきたと思われる。大気汚染、交通事故による死傷者数の増加、化石燃料の大量消費などである。同じようなことがロボット開発の過程で今後起きてくるのではないかと危惧される。医療・介護分での使用を目的としたパワーアシストスーツやお掃除ロボットのような一般家庭で導入されることを前提としたもの、さらに災害現場での重労働が期待されているものまで実に様々なロボットの研究・開発が現在世界中で行われている。企業や政府の支援を受けた共同研究も世界各地の大学などで既に始まっている。中には既に市販されているものも少なくない。
一般に、新しい道具や機械の発明・開発の当初ではそれらのもたらすプラス効果がクローズアップされがちでありそのマイナス面には目が向きにくい。特にアメリカでは湾岸戦争以来、兵士の死亡者数を減らす目的で軍事用ロボットの研究・開発とその使用をめぐって様々な問題が起きている。だが私達は、将来さらに深刻な問題になってくるのは現在世界中で行われている「二足歩行人型ロボット」の研究・開発が軍事技術化する可能性だと考える。日本でも1996年12月にある自動車メーカーがそれまで実現不可能とされていた世界初の二足歩行人型ロボットの開発に成功した。軍事産業の盛んな国や現在世界各地で戦闘を行っている国から見ると「二足歩行人型ロボット」の兵器化は大変興あるテーマであることは想像に難くない。例えば2000年に製作された日本の当時の最新型二足歩行人型ロボットはその歩行自由度の素晴らしさに驚くと同時に、機関銃を持たせて射撃させることはすぐにでも可能だと思われた。また現在世界中で開発が進められている原発事故のような危険な災害現場で作業できる「二足歩行人型ロボット」は戦場での使用への転用も容易であろう。重要なことはロボット開発においても光と影の両方を見ることである。
一方ロボットの兵器化を制限する国際的な明確なルールは未だ存在せず、最近ようやく問題提起がなされたばかりである。
さらに問題なのは通常兵器とロボット兵器の境界線が明瞭でないことである。センサーで周囲の情報を集め、コンピューターで考え、そして動力を持つのがロボットだとすると最新鋭の戦闘機は既にロボットの一種だと言えよう。また科学技術の発展途上で何らかの制限・禁止が設けられても、それに抵触しないような新たな開発・研究や使用方法がほぼ同時に考案されてきたことは歴史が証明している。だから効果的な方法としては最も重要なところを抑えるしかないと思われる。特に「二足歩行人型ロボット」は体型や活動状況が人間そっくりなので、これが軍事技術化されて実際に使用され始めると単にロボット同士が戦場で戦うだけでなく、次第に戦場以外のあらゆる場面でも人間の生命が自分達の作ったロボットに脅かされることになりかねない。例えば人々が地下深く避難しても飛行機型や車型や船型のロボットとは異なり、「二足歩行人型ロボット」は自分の指でエレベーターのボタンを押してどこまでも迫いかけてくるだろう。「二足歩行人型ロボット」は人類にとって最大のパートナーとなりうる可能性を持つと同時に、また最大の脅威になる可能性をも秘めているのである。
日本では鉄腕アトムや鉄人28号などの影響で特に「二足歩行人型ロボット」に親しみを感じている人が多いと思われる。ロボットに関するに技術・文化面で先行している日本は世界に先駆けて「二足歩行人型ロボット」の軍事利用禁止を呼びかけていくべき立ち場にあると思う。例えばアメリカの作家・生化学者アイザック・アシモフの著作「われはロボット」(1950年)の中で示されたロボット三原則(人間への安全性・命令への服従・自己防衛)のような具体的なルール構築の検討を「二足歩行人型ロボット」について実際に適用する方向で、国内・国外の政府関係者や研究者間で早急に始めることが必要である。私たちは、日本の一自動車会社が生み出したロボットが印した一歩は、人類が月面に印した一歩と同じかそれ以上のインパクトを将来人類にもたらす可能性があると考えている。
2020年8月12日
日本二足歩行人型ロボット研究学会
会長 有村 俊夫
本作品は作者の創作によるフィクションであり、現実に存在するものとは全く関係ありません。
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