その高速道路は札幌~旭川~帯広~札幌で描く三角形になっている。政府の成長戦略の一環として春先から晩秋までの期間開通している速度制限無しの高速道路である。毎年内外の様々な車が売り出されている。車の性能は向上する一方であり、最近は安全面での技術革新も著しい。しかし日本では若者の車離れが著しい。そこで熱烈な車ファンの期待に応える形で自動車人気を再び起こそうというのである。軽く200キロから300キロ出せる車でも速度制限のある高速道路ではその性能を思う存分味わうこともできなかった。この高速道路なら車のパフォーマンスを極限まで引き出すことができる訳だ。
私は買ったばかりの高齢者に特化したと言うスーパーカーでここまでやって来た。先ほど札幌を出発したばかりだが速度は既に300キロを超えている。もっとも自動運転車なので私は何もすることがない。
「ジェームス、私も運転したくなった。」
「この車にはハンドルがついておりませんのでそれはできません。もし御主人様が運転なさったとしてもこのスピードと状況では限りなく不可能に近いと思われます。」とジェームスは例の静かな口調で言った。
それを聞いても腹はたたない。なぜなら彼の言うとおりだと思うからだ。
右側のレーンを一台の車がぶっ飛ばしてきた。私の車の横に並んだ。面白い形の車だ。まるでダンプカーだ。
「あれはダンプリムジンです。」とジェームスが言った。
「聞いたことはある。あれがそうか。でもダンプでよく300キロも出せるものだ。」と私。
「エンジンはEV専用の強力なモーターになっています。EVレーシングカーで使われているものです。さらにバッテリーはこれも強力な燃料電池です。形はダンプカーですが運転席などの装備は最高級品でかためてあります。とにかくすごい車です。」
感心しているとそのあとからフェラーリやランボルギーニやポルシェなどがいずれも300キロを超える速度でジェームスを追い越して行った。
「ジェームス、私達も右側のレーンへ行こう。」
「それはおやめになったほうがいいです。この速度でも十分堪能なさったと思います。いくら私が自動運転車でも速度の出し過ぎには危険も伴いますから。」
解説:
あるお金持ちの社長が出勤途中で追突事故に会った。未だに自動ブレーキがついていない車があったのだ。それも仕方なかった。新車はすべて自動ブレーキをつけることが法律で決まっていたが既に販売された車についてはその限りではなかった。幸い事故の衝撃はそれほど大きくはなかった。しかし社長は以前から首に故障があって時々首から肩にかけて強い痛みが出ることがあった。そこで彼は普段から自分の首についてはとても慎重だった。彼はさらなる交通事故に巻き込まれることをひどく恐れた。そしてなんとか事故から自分の身を守る方法はないかと考えた。自分の乗っている車が事故を起こさなくても他からぶつかってきたら防ぎようがない。そんな時、彼は会社から家に帰る途中で交差点で止まっていた時、隣にでっかいダンプカーが止まっていたのを見かけた。その瞬間、ひらめいたのであった。知り合いのダンプカー販売会社の社長に頼み込んで特別仕様のダンプカーを作ってもらった。ダンプカーを乗用車に作り変えたのである。ダンプカーが原型になっているのでこれなら追突されても安心だと彼は考えたのである。サスペンションを工夫してあるので乗り心地は普通車と大して変わらなかった。運転席が高いから見晴らしも最高だった。不思議なことにこのダンプリムジンにしてから追突されることはなくなった。ただすれ違う車や通行人がこの車の方を注視するのでそれだけは嫌だったが仕方ない。
本作品は作者の創作によるフィクションであり、現実に存在するものとは全く関係ありません。
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