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100年後

 俺は妻と二人で生活している。二人の子どもは既に成人して家を出ている。俺は毎日決まった時間に起き、会社へ行き、夕方には家に戻って来る。土日も特に変わったこともなくまあまあ平凡な社会人としての毎日を過ごしている。

 その日は突然やってきた。帰宅するため電車を降りて駅を出た俺は交差点で信号が変わるのを待っていた。信号が青になったので横断歩道に足を踏み入れた。その時右側から車が突進してきたことには全く気付かなかった。

 「どれ、目が醒めたかな。」という声がした。

 あたりを見回すと目の前に白いひげを生やした老人がいた。こちらをじっと見ている。その目は鋭かった。しかし嫌な感じはしなかった。どうやら自分はこの老人を信頼しているようだと思った。

 「あれを見なさい。」と老人は下を指差した。なんと自分も老人も空中に浮かんでいたのだ。周りを薄い雲が取り囲んでいたからここがどこかさっぱりわからなかった。しかし言われて下を見るとなんと自分の家族がベッドの周りで泣いている。しかもベッドに横たわっている人間は自分ではないか!

 「どういうことですか。」と自分は聞いた。

 「わかるじゃろう。お前はたった今死んだのだ。」と老人は言った。

 「え!そうなんですか。じゃここは天国?」

 「いや、違う。そこが問題だったのじゃよ。では少し説明しよう。」

 「お前は一度死んだのだ。しかもちょうど100年前にだ。しかしどういう訳かお前は何時まで経っても成仏しなかった。そして浮遊霊となって下界をさまよっておった。時折お前をたまたま見かけた人間が『幽霊を見た!』と言って大騒ぎになる始末じゃった。」

 「へ~!そうだったんですか。それで?」

 「そこでじゃ、わしはお前に何故早く成仏せんのか問いただした。するとお前はこういった。『私はまだ死にたくありません』。しかし死んだ人間は大概そう言うのじゃよ。しかしお前の理由はちょっと違っていた。」

 「どういう風にですか。」

 「お前はこう言った。『私は100年後の世界を見てみたいのです。私の生きてきたこの時代はおせじにも私にとってはいい時代ではありませんでした。結核という怖ろしい死病がはやっています。かかったらまず助かりません。世間では貧しい暮らしをしている人が一杯います。この時代は嫌です。もっと先のせめて100年先に生まれたかった。そう思うと死んでも死に切れません』。と」

 「以下はお前とわしの会話を再現したものだ。」

       *          *         *

 「なるほどな。お前の言うことにも一理ある。それにお前ほど現世に執着している魂も珍しい。」

 「へ~?そうなんですか。」

 「わかった。お前のその執念とも言うべき執着心に免じてちょっとだけチャンスをあげよう。」

 「ありがとうございます。それで一体どうなるんですか。」

 「お前を100年先に送ってそこで生き返らせる。お前はそこで100年先の人間として生きるのだ。それならいいだろう?」

 「了解しました。納得できます。」

       *          *         *

 「こうしてお前は100年先の世界で生きてきたのだ。ただし何時までもそこにいてもらっても差し支えるからこうして戻ってきてもらった。交通事故にあって死んだのだ。」

 「え!交通事故ですか?」

 「そうじゃ、一度死なないとここに戻ってこれないのじゃよ。」

 「俺は最初に死んだ場所に戻ったってことですか。」

 「そうじゃ、分かったかな?」

 「じゃ俺はどうなるんですか?」

 「その前に聞きたい。100年先の生活はどうじゃったかな?」

 「そうですね。結局同じでしたね。いつの時代も人は苦労しています。世の中もいつも危険や病気が蔓延しています。結核はもう特効薬ができていましたね。でも新しい病気の、確かがんとかいうやつがはびこっていました。世界中で争いごとが起きていました。何時の時代も人間は落ち着いて暮らすってことを知らないんですよ。全く!」

 「そうか、そこまで理解できたか。わしのしたこともまんざら悪くなかったようじゃな。」

 「まあなんとなく納得できた気がしています。人間っていつの時代もやってることは同じなんですね。ある意味がっかりです。人間は思った程進化していないのですね。ケダモノにちょっと毛が生えた程度の存在なんだと思いました。」

 「そうか、そうか。そこまでわかってくれたか。上出来じゃ。それじゃあ今度はまっすぐ成仏できるんじゃな。」

  すると老人は俺の目の前に右手をかざした後それを右側に振った。

 「あなた。早く起きて下さいよ。時間ですよ。急がないと会社に遅れますよ。」という声がした。

 「あれ、あれは妻の良子の声だ。」

 俺はそう思った。

 「なんだ。今の夢だったのか。いや、驚いた。すごい夢だった。」

 リビングルームに下りていった俺は妻に聞いた。

 「今、西暦何年だっけ?」

 「は?2020年でしょ?」と妻はいぶかしげな表情を浮かべながら答えた。

 「おかしなことを聞くなあ。」と思っていることは確かだった。

 「仕方ない。自分に自信がないから確かめざるを得なかったのだから。」と俺は思った。

 「そうか、2020年か。良かった。・・・と言ってもおれないぞ。こりや大変だ。いつの時代も同じなんだからな。」

 俺はそう思って朝食に箸をつけた。

 妻は俺とのやりとりをさほど気にするでもなく、いつものようにきれいな顔でごはんを食べていた。

(注)

 本作品は作者の創作によるフィクションであり、現実に存在するものとは全く関係ありません。

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